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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
金 研究室

保全計画を最適化する数理モデルの提案

所属

大学院情報理工学研究科
情報学専攻

メンバー

金 路 准教授

所属学会

日本品質管理学会、日本信頼性学会、米電気電子学会(IEEE)、日本オペレーションズ・リサーチ学会、電子情報通信学会、日本保全学会

研究室HP

home 金路 研究室

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掲載情報は2023年4月現在

金 路 Lu JIN
キーワード

信頼性工学、保全工学、予防保全、事後保全、時間計画保全、状態監視保全、保全計画の策定、意思決定、最適化理論

飛行機や電車などの乗り物からビルなどの建築、橋や道路といった構造物まで、あらゆるシステムは運用を続けることで次第に劣化していきます。劣化が進行し、その限界を超えると故障して安全性に甚大な被害を及ぼす恐れがあります。安全・安心な社会を持続するためには、システムを適切なタイミングで保全(メンテナンス)することが欠かせません。

適切な保全により寿命が向上

信頼性工学における保全の数理を専門にする金路准教授は、こうしたシステムの劣化の状態を監視し、故障する前に適切に保全するための方策を研究しています。製品やシステムの性能は、稼働開始時点から時間とともに劣化し、経年変化によりいずれ限界値に達しますが、適切な時期に保全することによってその寿命を延ばすことが可能です。

保全には大きく「予防保全」と「事後保全」の2種類があります。予防保全は故障のメカニズムや劣化の速度などに基づき、事前に行う保全です。一方、事後保全は故障や事故など不具合が発生した後に行う保全です。予防保全を頻繁に行えば事後保全を減らすことができますが、その分、保全コストは上がります。「予防保全と事後保全のバランスを考慮しつつ、対象システムのデータなどに基づいて保全の実施時期や内容を決める“意思決定”が重要になる」と金准教授はいいます。

IoT時代の保全方策

予防保全にはさらに2通りがあり、金准教授は定期的な検査によって劣化状態の進行をとらえ、故障する前に必要な処置を行う「状態監視保全(状態に基づく保全)」計画を最適化する数理モデルの開発に取り組んでいます。IoT(モノのインターネット)時代の到来で、システムの常時モニタリングが可能になりました。金准教授は多様かつ複雑なこのデータを基に劣化の状態を把握し、膨大な候補の中から最適な保全方策を選択するモデルを提案し、さらに最適解の構造なども解明してきました。

今後は、保全計画策定時の精度やスピードを向上させるアルゴリズムを開発し、「あらゆる情報を活用して世の中のシステムが無駄なく適切な保全を行えるよう支援していきたい」と金准教授は考えています。具体的には、システムは運用を重ねることで経年劣化し性能が低下しますが、ランダムに受けるショックの影響が蓄積されることによってさらに劣化が加速していきます。このようなショックによる累積損傷の影響を考慮した状態監視保全について研究する予定だそうです。

完全点検と不完全点検を組み合わせる

もう一方の予防保全である、「時間計画保全(時間に基づく保全)」の研究も手がけています。これは消化器が10年という期間が経つと状態に関係なく必ず新品に交換するように、期間や累積稼働時間に基づいて定期的に部品を交換する保全作業です。
この時間計画保全については可変周期の点検計画や、ワイヤレスセンサネットワークの保全計画の最適化などを研究しています。可変周期点検とは一定の間隔ではなく、不定期に行う点検です。一定の間隔で直接精密に点検する「完全点検」と、遠隔地からのモニタリングで安価に点検する「不完全点検」を組み合わせることで、安全性とコストを両立する最適な保全計画を模索しました。
ワイヤレスセンサネットワークは無線通信が可能なセンサを多数配置して構成したネットワークで、製造現場や交通網、防災用途などあらゆる領域に張り巡らされています。ただ、稼働開始からの時間経過に伴って性能は次第に低下し、ネットワークが劣化すると対象を十分に観測できないといった状況を引き起こします。これを防ぐために、一部のセンサが故障してもネットワーク内で稼働するセンサの数を一定に保てるよう、新しいセンサをランダムに配置する保全方策を提案しました。

金融工学への応用も

このほか、金准教授は海外の大学や企業との共同研究にも積極的に取り組んでいます。印刷機メーカーとは実際のデータを用い、製品交換の最適な時期などを算出しました。スウェーデンのメーラダーレン大学とは、保全の数理モデルを金融工学に応用し、リスク資産の価格付けなど投資戦略を検討する異分野のテーマに挑んでいます。「投資戦略の検討と保全の意思決定は、対象の確率的な変動を予測しながら行動を選択する問題としてその構造が共通しており、新たな分野を切り開けるかもしれない」と感じているそうです。

【取材・文=藤木信穂】