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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
高橋(弘) 研究室

音と音を〝絶妙〟に混ぜるスマートミキサーを開発

所属 大学院情報理工学研究科
情報・通信工学専攻
メンバー 高橋 弘太 准教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)、日本音響学会
研究室HP http://www.it.ice.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

高橋 弘太
Kota TAKAHASHI
キーワード

音楽の信号処理、音声の信号処理、サウンドミキサー、実時間演算システム、FPGA、統計的信号処理、ディジタル信号処理、信号の分解と合成、音響工学、聴覚

スマートミキサーの試作機。専用の演算回路で高性能化を実現。 液晶画面で2次元上の信号を確認しつつ好みの音にも調整可能。
2次元平面に展開された信号。白→赤→緑→青の順でエネルギーが強くなる。

車に乗って心地よく音楽を聴いている時に、不意にカーナビゲーションシステムの音声がそれをさえぎって不快な思いなどをしたことはないでしょうか。これは、音楽と音声とを絶妙なさじ加減で混ぜ合わせる「ミキシング」がうまくいっていない証拠です。
音楽CDを製作するレコーディング現場などでは、経験豊富なプロのミキシングエンジニアが熟練の勘によって音を混ぜ合わせています。歌手のCDは通常、ボーカルの音声を聞き取りやすいようにミキシングしています。しかし、例えば、歌と歌の合間のギターのソロ演奏では、ギターの音を強調させるというように、その時々で“主役”を際立たせ、音にメリハリを付けているのです。

高橋弘太准教授はこうしたミキシングを、高度な信号処理に基づいてコンピューターに自動で行わせようという研究をしています。音を単純に足し合わせる従来手法に比べ、複数の音を混ぜても音同士が衝突しない新しい手法を開発し、「スマートミキサー」と名づけました。既に試作機を完成しており、「世の中の多くの人に使ってもらいたい」と高橋准教授は考えています。
スマートミキサーの仕組みを簡単にご説明しましょう。まず、音は2次元平面に展開して扱います。例えば、エレキギターの入力信号を横軸が時間、縦軸が周波数の「平面」に変換します。次に、ボーカル(音声)の信号も同様に平面に変換します。これらを単純に加算すると、ギターの信号強度の方が強くなり、ボーカルの信号がほとんど消えてしまっていることが分かります。

一方、開発したスマートミキサーは、各パートの信号の周波数と周波数の隙間に、別の音の重要な部分を織り込んでいくように組み合わせる処理を行います。これによって、ギターとボーカルがそれぞれ相手の邪魔をせずに、かつ引き立てられているという状態を作り出すことができました。この音楽を聴くと、ギターとボーカルがうまく調和していることが分かります。
利用シーンとして、例えば、ラジオ番組などでBGMの音を小さくせずにDJが話すことができたり、デパートなどで音楽を止めずに館内放送を流すことができるようになります。「信号処理技術を駆使すれば、手動で行うよりもきめ細かなミキシングができる」と高橋准教授は主張します。リアルタイムで処理できるため、ライブ演奏が行われている“その場”でのミキシングも可能です。
高橋准教授は三つの応用分野を想定しています。一つ目は、前述したようなレコーディングなどの音楽制作用途です。楽器店で販売できるようなスマートミキサー装置を作り、各パートの音の優先度を1~6くらいのレベルで自在に変えられるようにすることを考えています。また、カラオケなどで、伴奏に対してボーカルを特別な効果で重ねたり、デュエットするときに2人の声を気持ち良く響くよう重ねたりすることもできるといいます。
二つ目は、カーナビ市場です。車に搭載するカーナビに高付加価値をつけられるので、高い需要が見込めるでしょう。
三つ目は、スマートフォン用のアプリケーションです。将来、スマホを使って撮影した動画に、聴き取りやすいナレーションなどを手軽に入れることができるようになると考えています。インターネット上の動画投稿サイトに作品をアップロードしたときに、自動的にスマートミキシングするようなネット経由での利用も見込めます。携帯電話を使って複数の人が同時に発言するようなテレビ会議などで、特定の声だけを際立たせるような処理もできそうです。テレビ番組の司会者の音声を聞き取りやすくするマイクの開発などにも役立つかもしれません。
高橋准教授はもともと信号の分離の研究をしていました。音声データなどから雑音などを取り除く信号分離技術は、信号処理研究の一大分野になっています。それに比較すると、信号を混合する技術はほとんど研究されていないといいます。「誰もやっていない領域に踏み込めば、新しいモノが作れるかもしれない」と考え、混合の研究に着手しました。しかし、実際に研究をはじめてみると、混合といっても、信号を分離しつつ足し合わせる技術が要になることが分かりました。開発したスマートミキサーには、「信号分離で培った技術がしっかりと生きている」のだそうです。

研究室での実験風景
スマートミキサー装置のイメージ

信号処理を駆使して、より良い音を追求する――。高橋准教授の夢は、まずはスマートミキサーを役立つモノとして実用化すること、そして、その先に新しい「音響信号処理分野」を立ち上げることです。日本では数少ない“音”の専門家として、多方面での活躍が期待されます。
【取材・文=藤木信穂】

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