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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
桂川 研究室

超広帯域ラマンコムの発生、超高繰り返し超短パルス光発生、
絶対位相制御光の物性制御への応用

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 桂川 眞幸 教授
所属学会 日本物理学会、応用物理学会、Optical Society of America
研究室HP http://www.mklab.es.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

桂川 眞幸
Masayuki KATSURAGAWA
キーワード

光科学、量子エレクトロニクス、レーザー物理学、非線形光学、誘導散乱、四光波混合、量子干渉、電磁誘起透明化、超高速現象、アト秒、超短パルスレーザー、注入同期レーザー、真空紫外レーザー、リソグラフィー、テラヘルツ波

研究概要

新しい非線形光学過程の開拓

我々は、「量子エレクトロニクス」と呼ばれる学問分野を専門としている。量子エレクトロニクスは、レーザーが発明されたことに伴って新しく形づくられてきた学問分野である。広い意味では、レーザー光を使う研究全体を指していると思ってもらって良いだろう。
「レーザー光」とは、簡単に言えば”良く制御された光”である。「光」は粒子的な性質と波動的な性質を併せ持つが、質量を持たないので、通常、我々は光の波としての性質に良く出会う。波は、周波数(単色性)や位相(コヒーレンス)、あるいはその進む方向(指向性)で特徴づけられる。レーザー光が普通の光と異なるのは、それらの特性が極めてよく制御されている点にある。例えば、周波数でいうと、良い性能を持ったレーザー光は、 281,629,805,984.7(05)kHzというように13桁以上にもわたってその値を決定することができる。
こういった光(レーザー光)を物質と相互作用させて、その光がどうなったかを見ると、そこで起こったことを極めて高精度に知ることができる。一方、これとは逆に、そのようなレーザー光を用いて光と物質の相互作用を高精度に制御することも可能である。我々は主に後者の立場に興味をもって研究を展開している。

図1:分子-光変調の概念図と水素分子のa:振動(125THz)、 b:回転(10THz)、c:振動と回転(125THz + 10THz)を用いて発生させた変調サイドバンドスペクトル。

典型的な例を紹介しよう。図1は、二色のレーザー光を用いて、全ての分子が位相を揃えて振動・回転する状態を生成した研究の概略である。ポイントは、二色のレーザー光の差周波数を高精度に制御し、それを分子の振動や回転の遷移周波数からわずかにずらす点にある。生成される分子集団は、例えば、超高周波の光変調器として利用することができる。分子の振動や回転を利用するので、電気的にはアプローチが不可能な極めて高い周波数(1~102 THz=1012?1014Hz)の光変調が可能になる。

アドバンテージ

通説を越えて

図2:分子-光変調スペクトルのスペクトル位相を操作して得られた10THz繰り返し超短パルス列の自己相関波形(黒点)と時間波形(細実線:パルス幅12fs)。挿入図はビームパターン。

この技術は、現在の我々の研究のベースになっている。図2は、コヒーレントに回転するパラ水素分子集団を生成し、それを用いて高速変調した光スペクトルをもとに発生させた超短パルス光である。12 fs(フェムト秒)の超短パルス光が10・6THzの超高繰り返し周波数をもって安定に生成されていることがわかる[文献1]。
現在の光通信で用いられているパルス繰り返しレートより1000倍も高速である。将来の大容量光通信における革新技術となる可能性がある。
この結果は、超短パルスレーザー光の発生方法という点でも極めてユニークである。通常、超短パルスレーザー光は、多数の発振周波数モードをもつレーザー光の各モード間を互いに位相同期(モードロック)させることで発生させる。
これに対して、ここで紹介した方法は、単一周波数で発振するレーザー光を出発点として、(分子による高速変調によって)一定の位相関係をもった広帯域スペクトルを発生させ、超短パルス光を生成する。アプローチが正反対なので、従来に無い特徴をもった超短パルス光の発生が可能になる。
例えば、簡単な例としては、起点とする単一周波数レーザー光の波長を変えることで、中心周波数を極めて広帯域・高精度に可変にできる超短パルス光をつくることができる。研究用レーザー機器としてとても魅力的だろう。

図3:二波長発振注入同期レーザーシステム

我々の研究スタイルの特徴は、必要な道具を積極的に自主開発する点にある。一連の研究の中で、「二波長発振・広帯域波長可変・注入同期レーザー」を新規に開発した[文献2]。このレーザーは、我々の研究の土台をなす“位相を揃えて振動・回転する分子集団の生成”に欠かせない。このレーザー装置は、任意の二波長のレーザー光を単一のレーザー共振器から発生させることができる。その結果、出力される二波長のレーザー光は、時間・空間の重なりを互いに完全に満たすものとなる。
他にも、この技術を拡張し、様々な型の注入同期レーザーを開発してきた。これまでに、数GHzから数百THzのビート周波数をもつ各種レーザー装置を実現した。注入同期レーザーは、環境計測(ライダー)やテラヘルツ波発生の光源として広く利用されている。我々の開発した光源は、これらの用途における精度を格段に向上させるだろう。また、生体計測用の光源としても有望と思われる。一連のレーザー装置に関連して、特許[文献3・4]を取得している。

【文献】
1 Optics Express. Vol. 13, 5628 (2005)
2 Optics Letters. Vol. 30, 2421 (2005)
3 特願2004‐56879
4 特許第3540741号

今後の展開

究極のレーザーを求めて

図4:実験室の風景

量子エレクトロニクスと呼ばれる学問分野は、レーザー光の性能の極限化技術(単一周波数化、超短パルス化、高強度化)とともに発展してきた。ここで紹介した我々の手法は、超短パルス化の極限を飛躍的に推し進めるポテンシャルを持っている。また、この光源が単一周波数レーザー光から生成されることから、新しい光周波数標準となりうる可能性も秘めている。
我々は、これまでの成果を基礎として、実用レベルの安定性をもった超高繰り返し超短パルス光の発生技術の確立を目指している。また、この技術によって、「超短パルスレーザー光の高精度高繰り返し性」という新たな極限化軸の研究領域が切り開かれることを展望している。
我々は、学内外の研究室、国立の研究所(産業技術総合研究所、情報通信研究機構)、企業の研究所(古河電工ファイテルフォトニクス研究所)と積極的に連携しながら研究を進めている。ここで紹介した成果は、その協同作業の中で得られたものである。

研究・産学連携
研究
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