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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
古川 研究室

「色素」添加の光ファイバー応力センサで高齢インフラを安価に点検

所属 先端領域教育研究センター
メンバー 古川 怜 特任助教
所属学会 国際光工学会(SPIE)、
応用物理学会、高分子学会
研究室HP http://kjk.office.uec.ac.jp/Profiles /58/0005800/profile.html
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掲載情報は2015年8月現在

古川 怜
Rei FURUKAWA
キーワード

光ファイバー応力センサ、ポリマー光ファイバー、マルチモードファイバー

近年、トンネルや橋などのインフラ(社会基盤)の老朽化が問題になっています。インフラの寿命は通常、建設から約50年と言われており、高度経済成長期に大量に造られたインフラが現在一斉に寿命を迎えつつあるからです。
しかし、現状では、どのインフラが老朽化を迎えているか、という状況の把握すら十分に行われていないのが実情です。インフラの内部を詳しく調べるには、人による目視や打音点検が必要です。そのために足場を構築すれば、交通規制が必要となり、多額の費用や時間を費やしてしまうのです。
こうした背景から、古川怜特任助教が提案するのが光ファイバーを使った「応力センサ」の導入です。高齢化したインフラが地震などでひずんだり、位置がずれたりした時の変化を瞬時にとらえ、トンネルなどが崩落する前の“予兆”を事前に自動で検知しようとするものです。
応力センサとは、物体に外から力が加わった際に、そのひずみ量(応力値)を測定する装置です。「ひずみセンサ」とも呼ばれます。この応力センサ機能を光ファイバーで実現し、長いトンネルにそれを張り巡らせれば、あたかも人間の身体の「神経網」のように、力が加わった場所が反応してひずみ量を検知できるのです。
光ファイバーを使った応力センサシステムは従来もありました。ただ、既存のシステムは、「神経」の反応を集中的に管理・監視する「頭脳」となるコントロールセンターが巨大化し、装置が高額になってしまう問題がありました。また、物体に当てて返ってきた光の波長の微妙な変化をとらえるため、検知手法そのものが高度であり、運用に専門の技術者を必要とすることも普及を阻む要因になっていました。 古川助教はこれらの課題を解決するため、「材料費と敷設費のみでランニングコストが“ゼロ”であり、誰でも簡単に検知できる『実用的な光ファイバー応力センサシステム』を作りたい」と考えています。
テーマの一例として、光ファイバー中に「色素」を混ぜて検知性能を向上させる研究に取り組んでいます。色素とは、可視光の波長の一部を吸収し、それ以外を透過または反射させて物体に色を与える物質です。色素は基本的には粉状の物質ですが、ミクロの目でみると、棒状や円盤状、四角状などさまざまな形をしています。

色素の配向性と応力と偏波の関係を使った応力センシング例。
この方式では光ファイバーへかかっている応力の方向がわかる。
光ファイバーのプリフォーム。慶応義塾大学と共同で作製
光ファイバーへ応力をかける装置

色素を混ぜた光ファイバーに応力をかけると、応力がかかった方向に色素が配向します。この配向の度合いによって、色素の吸収特性や発光特性が大きく変化します。したがって、物体に当てて返ってきた光、もしくは透過した光を観察すれば、その配向の具合が一目で分かるのです。このような仕組みを導入することで、「応力値」や応力がかかった「位置」だけでなく、従来は難しかった「応力の向き」までもが検知できるようになりました。「検知性能が飛躍的に上がるため、人が介入せずに、自動でインフラを監視できるようになる」と古川助教はみています。
現在は「ローダミン」という鮮紅色の頑丈な色素を用い、光通信に使われている石英の光ファイバーだけでなく、プラスチックの光ファイバーにも導入してその性能を追究しています。石英光ファイバーは耐久性などの物性に優れるほか、透明なため長距離に適用できるという利点を備えています。

一方、プラスチックのポリマー製の光ファイバーは柔らかく曲げやすいため、直径の太いファイバーを作れます。弾性率が高い特徴も持っています。応力をかけた時に、色素の向きを大きく変えられる可能性もあるそうで、検知性能をさらに高められるかもしれません。
しかし、ポリマー製光ファイバーは透明性が低く、色素を混ぜると透明性がさらに低下してしまう欠点を持っています。ただ、通信用途ではなくセンサ用途ならば、適用距離が多少短くなってもそれほど問題にはならないでしょう。古川助教は実用の観点から、ポリマー製光ファイバーに軸足を起きつつも、両ファイバーの性能を比較しながら研究を進めています。
古川助教はポリマー製光ファイバーの専門家でありますが、従来手がけていた「人工光合成」の研究から、色素を光ファイバー応力センサに取り入れる研究の着想を得たそうです。米国では色素増感太陽電池を開発した経験もあり、幅広いバックグラウンドを研究に生かしています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、現在、首都圏を中心にインフラが大整備される機運が高まっています。古川助教は「時代の流れにうまく乗って、建設業界だけでなく、自動車や航空機、住宅、宇宙などさまざまな業種の企業と連携しつつ、実用化の可能性を探っていきたい」と考えています。
【取材・文=藤木信穂】

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