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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

悪魔の階段を登りきる!:池田暁彦助教(基盤理工学専攻)が参加する国際超強磁場研究チームの成果が国際学術誌Nature Communicationsに掲載

2023年06月26日

池田暁彦助教(基盤理工学専攻)が参加する野村肇宏助教(東京大学物性研究所、現:東京電機大学講師)を中心とした国際超強磁場研究チームは、陰山洋教授(京都大学)の研究チーム、宮田敦彦博士(HZDR(ドイツ)、現:東京大学物性研究所准教授)とS. Zherlitsyn博士、P. Corboz教授(アムステルダム大学)、F. Mila教授(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)らと共同で二次元量子スピン物質SrCu2(BO3)2の飽和磁場までの物性を明らかにすることに成功しました。本成果はオープンアクセスの国際学術誌Nature Communicationsに6月24日(木)(現地時間)に掲載されました。

SrCu2(BO3)2は「悪魔の階段」と呼ばれる、極めて複雑な磁化過程を示すことで知られる二次元量子スピン磁性体です。1999年に陰山教授らによって強磁場磁化過程が報告されて以来、世界中の強磁場施設がしのぎを削りながら、より高磁場領域までの物性探索を行ってきました。新技術が登場するたび真っ先にSrCu2(BO3)2に適用され、新たな物理が明らかにされてきたことを鑑みると、強磁場研究の歴史はSrCu2(BO3)2と共に歩んできたと言っても過言ではありません。

これまでSrCu2(BO3)2について、118テスラまでの磁化過程が物性研究所の松田康弘教授らによって2013年に報告され、世界記録として定着していました。今回、野村助教らは超音波と磁歪という新たな超強磁場計測技術を用い、飽和磁場(140テスラ)までの物性を明らかにすることに成功しました(下図左)。実験技術の進歩により「悪魔の階段」を登り切ったことは、磁性研究の歴史における金字塔と呼べるものです。得られた実験結果は、理論で予言されなかったスピン超固体相の存在を示唆するものであり(下図右)、一筋縄ではいかないSrCu2(BO3)2の深淵さを物語っています。今後更なる実験・計算技術発展により、深淵の奥底が明らかになることが期待されます。

SrCu2(BO3)2の超強磁場実験結果 (a)超音波音速の相対変化、(b)磁歪、(c)磁化の磁場依存性。右図はSrCu2(BO3)2の結晶構造と、本研究で新たに提案されたスピン超固体相の磁気構造。

SrCu2(BO3)2の超強磁場実験結果 (a)超音波音速の相対変化、(b)磁歪、(c)磁化の磁場依存性。右図はSrCu2(BO3)2の結晶構造(右上図)と、本研究で新たに提案されたスピン超固体相の磁気構造(右下図)。

雑誌名Nature Communications
論文タイトル:Unveiling new quantum phases in the Shastry-Sutherland compound SrCu2(BO3)2 up to the saturation magnetic field
著者: T. Nomura, P. Corboz, A. Miyata, S. Zherlitsyn, Y. Ishii, Y. Kohama, Y. H. Matsuda, A. Ikeda, C. Zhong, H. Kageyama, and F. Mila
DOI(新しいウィンドウが開きます)10.1038/s41467-023-39502-5