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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】シリコン基板上に高密度・高均一のIII-V族半導体量子ナノワイヤーを作製

2023年11月10日

ポイント

*InAs量子ナノワイヤーのSi基板上への作製に成功
*従来比10倍以上の高密度、標準偏差10%以下の高均一化を実現
*量子サイズ効果を確認
*次世代の量子デバイスへの応用に期待

概要

山口浩一教授(基盤理工学専攻)らの研究グループは、従来よりも10倍以上の高い密度で、かつ細線直径の標準偏差が10%以下の高均一なInAs(インジウムヒ素)量子ナノワイヤー(量子細線)をSi(シリコン)基板上に作製する技術を開発しました。本研究で開発した成長技術により、量子ナノワイヤー内に量子ドット構造を内蔵した新しい量子ナノデバイスなどへの展開が期待されます。
半導体量子ナノワイヤーは、次世代の縦型トランジスタやメモリーに加え、量子細線レーザーなどの光電子デバイスの超集積化や高効率の量子構造太陽電池、高感度・高密度の量子ナノセンサーなどさまざまなデバイスへの応用が見通されています。しかし、高密度で高均一な量子ナノワイヤー構造の作製は難しく、高度な結晶成長技術の開発が求められていました。
本研究では、分子線エピタキシー(MBE)法により、Si基板表面の酸化膜にGa(ガリウム)のナノ液滴を堆積させ、基板の加熱による反応過程を経てナノメートル(nm、ナノは10億分の1)サイズのピンホールを形成しました。この酸化膜のピンホール底のSi基板結晶からInAs単結晶核を形成し、高さ方向に成長したInAsナノワイヤーが高密度かつ高均一に形成されていることを確認しました。従来のナノワイヤーに比べて10倍から100倍の高い密度で、さらに量子サイズ効果を発現する量子ナノワイヤーを高均一(標準偏差8.8%)に作製することができました。次世代の多様な量子ナノデバイスを構成する量子ナノワイヤーの高品質な作製技術として、幅広い応用が見込まれます。
成果は米国物理学協会が発行する応用物理学に関する学術雑誌Journal of Applied Physicsに掲載されました。

手法・成果

今回、高密度で高均一な量子ナノワイヤー構造の作製に向けて、MBE法を使い、Si基板表面の酸化膜にGaナノ液滴を堆積し、基板加熱による反応過程によってナノメートルサイズのピンホールを形成する手法を用いました。この際、Ga液滴の供給量や反応温度、Si酸化膜表面の清浄化が重要になります。特に酸化膜表面の清浄化については、電子線の照射による表面への炭素などの吸着がピンホールの形成を阻害することが分かりました。このことから、表面構造の観察に用いる電子線照射や、表面パターン形成のための電子線照射などのプロセスは避ける必要があることを明らかにしました。
このようにしてSi酸化膜に高品質なピンホールを作製した上で、ピンホール底のSi基板結晶からInAs単結晶核を形成し、高さ方向の成長が促進された六方晶(ウルツ鉱構造)のInAsナノワイヤーを高密度かつ高均一に形成しました。
結晶成長実験では、面内密度が1~2×1010cm-2 のInAsナノワイヤーが再現性高く得られ、従来のナノワイヤーの10倍から100倍の高い密度で形成できました。また、ナノワイヤー構造以外の堆積物や多結晶粒の形成も抑制できることから、直径30nm以下の細いナノワイヤー構造を制御性高く作製することが可能になり、これによって量子サイズ効果を発現する量子ナノワイヤーを標準偏差8.8%と高均一に作製することに成功しました。

図1

図1:Si基板表面のSi酸化膜に形成したピンホール(断面で観察した透過型電子顕微鏡像)

図2

図2:高密度・高均一のInAs量子ナノワイヤー(走査型電子顕微鏡像、左)とInAs量子ナノワイヤー直径のヒストグラム(右)平均直径20 nm、標準偏差1.8 nm(8.8 %)

図3

図3:直径の異なるInAsナノワイヤーの発光スペクトル(左)と、InAsナノワイヤー直径と 発光ピークエネルギーの関係(WZ:ウルツ鉱構造、ZB:閃亜鉛鉱構造)(右)量子サイズ効果によってバルク結晶よりも発光エネルギーは高エネルギー化し、量子ナノワイヤーの直径を変化させることにより発光エネルギーを制御できる

今後の期待

高密度で高均一な半導体量子ナノワイヤーがSi基板上に作製できたことで、Si基板に集積する次世代の縦型トランジスタやメモリーのほか、量子ドット構造を内蔵した量子細線レーザーや量子構造太陽電池、量子ナノセンサーなどの量子デバイスの高機能化や超集積化が可能になると期待されます。
今後は、異種半導体結晶のヘテロ接合を導入したコア・シェル構造の量子ナノワイヤーや量子ドットナノワイヤーの作製を行い、量子デバイス応用について検討する予定です。

(論文情報)
雑誌名:「Journal of Applied Physics」Vol.134, (2023) 154302.
論文タイトル:High-density and high-uniformity InAs quantum nanowires on Si(111) substrates
著者:R. Nakagawa, R. Watanabe, N. Miyashita, and K. Yamaguchi
DOI番号:10.1063/5.0156299

詳細はPDFでご確認ください。