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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】スポラディックE層による航空用航法電波の異常伝播に関する研究成果が国際民間航空機関(ICAO)の技術文書「周波数ハンドブック」に記載

2023年12月07日

ポイント

  • *スポラディックEと呼ばれる電離圏現象が航空用航法電波の伝播に与えるインパクトを調べた。
  • *スポラディックEに伴って夏季に航空用航法電波の異常伝搬が高い頻度で発生することを明らかにした。
  • *研究成果が国際民間航空機関(ICAO)の技術文書である「周波数ハンドブック」に記載された。

概要

細川敬祐教授(情報・ネットワーク工学専攻)と齋藤享上席研究員(電子航法研究所)を中心とする研究グループは、航空用航法電波の観測によって、電離圏の高度100km付近に発生する「スポラディックE層」により航空用航法電波が反射されて長距離異常伝播を起こすことを実証しました。この研究成果が、2022年度に改訂が行われた国際民間航空機関(ICAO)の技術文書「周波数ハンドブック(Doc 9718)」に新たに記載され、航空用航法電波の周波数割り当ての参考情報として紹介されました。さらに、航空用航法電波の長距離異常伝播強度が、実際に航空機用受信機で十分受信されるレベルであることを実証しました。本研究プロジェクトでは、今後も日本国内における観測を継続することによって、スポラディックE層の出現を広域にモニタリングし、将来の航空用航法の安定的な運用に資する基礎的なデータ収集を行います。また、海外において同様の観測を実施することで、赤道プラズマバブルなどの他の電離圏現象が航空用航法に与える影響についても明らかにする予定です。

背景

地球大気の上層には、大気が部分的に電離した領域 「電離圏」が存在します。電離圏の存在が、通信電波の伝播に影響を与えることから、古くから研究が行われてきました。夏季(5-8月)の中緯度地域の電離圏では、100km付近の高度で電子の密度が突発的に上昇する「スポラディックE(Es)層」と呼ばれる現象が発生します。Es層が発生すると、電離圏で電波が反射されることによって放送波などの無線が遠方まで伝播し、混信を引き起こすことが古くから知られてきました(図1参照)。しかし、周波数が100MHzを超える電波を使用している「航空用航法システム」に対するEs層の影響は明らかになっていませんでした。特に、超短波全方位式無線標識施設(VHF Omni-directional radio Range: VOR)や計器着陸装置(Instrument Landing System Localizer: ILS LOC)のなどの航空用航法電波にEs層がどのような影響を与えるかについては、実際の観測に基づいた実証的な研究が行われておらず、航空用航法システムに対する影響を評価することが難しい状況でした。

図1:Es層の発生に伴って発生する航空用航法電波の異常伝播の模式図。高度100kmに発生したEs層によって電波が反射され、見通し外の領域にまで不要波として伝播し、所望波の受信に影響を与えるおそれがある。

図1:Es層の発生に伴って発生する航空用航法電波の異常伝播の模式図。高度100kmに発生したEs層によって電波が反射され、見通し外の領域にまで不要波として伝播し、所望波の受信に影響を与えるおそれがある。

手法・成果

本研究では、日本国内の複数箇所において、航空用航法電波のモニタリング観測を継続的に行い、108-118MHzの周波数帯で運用されているVORおよびILS LOCの航空用航法電波の長距離異常伝搬現象について、大量データに基づいた統計的な解析を行いました。その結果、VORおよびILS LOCの電波がEs層によって反射されることによって見通し範囲外まで長距離伝搬する事例が、夏季に高い頻度で発生していることが明らかになりました。この研究結果を踏まえ、2022年度に改訂された国際民間航空機関(ICAO)の技術文書「周波数ハンドブック」(Doc 9718, Handbook on Radio Frequency Spectrum Requirements for Civil Aviation,Volume II Frequency assignment planning criteria for aeronautical radio communication and navigation systems)では、Es層による反射が航空用航法電波の安定的な運用に影響を与える可能性があるという記述が新たに盛り込まれ、本研究の結果が国際的な技術文書の作成に貢献することができました。さらにその後の研究により、特に、ILS LOCの電波について、広島県呉市で受信された強い異常伝播信号を解析した結果、台湾の花蓮空港から送信された電波が2000kmに達する長い距離を伝播し、通常では届かない呉市で受信されていることが明らかになりました。ILS LOCの電波はVORに比べて低出力で送信されているため長距離伝搬が受信されるとは想定されてきませんでした。しかし、本研究は、ILS LOCの送信電波が高い指向性を持つことから、送信方向に受信局が存在する場合には、強い信号強度で異常伝播が発生しうることを明らかにしました。さらに、小型航空機に搭載されているものと同型のILS LOC受信機を広島県呉市に設置して観測を行った結果、Es層に伴う異常伝播が実用機材で十分受信されるレベルであることを明らかにしました。

外部資金情報

本研究は、電子航法研究所公募研究(2017年度、2020-2021年度)、日本学術振興会科学研究費補助金(18H04437)、村田学術振興財団研究助成(2020-2021年)のサポートにより実施されました。

詳細はPDFでご確認ください。